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"J dreamer"登場キャラクター設定 百合川 桐葉 16歳 高校2年生 活発で人当たりのよい性格ではあるが負けず嫌いの気があり、あきらめが悪いことでも有名。 セカンドランカーであり、比較的順調に勝ち点を取っているがまだまだマスターとしての経験は浅い。 藤堂家の向かいに自宅があり、茉莉とは朝の挨拶を交わす仲である。 翡翠 悪魔型の現時点の最新ロットである。 ちなみに現在は悪魔型、天使型共に店頭で気軽に購入することは難しく、今でも人気が全く衰えていないことを表している。 起動して半年経たないうちにセカンドへの昇進を決めたため、ルーキーとして周囲に注目されている。 悪魔型として標準的な性格のため当然のようにボクっ娘口調である。また努力家でそれが彼女の勝率の高さを物語っている。 紅の疾風 -F- 悪魔型のデフォルト武装を深紅に染め上げたモノをデフォルト装備とする。 ファーストランクで活躍する悪魔型?と思われる神姫。 というのも、特注らしきヘッドギアというかヘルメットを被っている上に戦闘中もほぼ無言の謎の神姫。 武装紳士 「-F-」のオーナーであり、彼もまたスーツに赤いシャツ黒ネクタイにサングラスという異様なスタイルで現れる。長めの金髪も相まって「少なくともまともな人間ではないだろう」と噂されている。 某巨大掲示板ではあたりまえのように「変態仮面」と言われている。
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夜。 寒さが強くなってきた、夜の商店街。 そこに氷雪恋は立っていた。 玩具屋のショーケース、そこに飾られている武装神姫。 それを恋はずっと見つめていた。 買えない。お金がない。小学生のお小遣いではとても足りない。 そこに男たちが声をかける。 「ねぇお嬢ちゃん、神姫欲しいの?」 「俺たちが買ってあげようか?」 下心丸出しの下卑た笑い。 「ちょっとビデオ撮らせてくれるだけでいいからさぁ」 「そうそう」 無言を肯定と受け取ったか、男たちは恋の手首を掴み、路地裏へと連れて行く。 恋はただ無言のまま連れられ、夜の闇に消えていった。 神姫狩人 第三話 FOUNDLING DOG WALTZ 「納得、いかねぇ」 時刻は土曜の昼、場所は警察署。 桐沢静真(きりさわしずま)は、不貞腐れていた。 「なんで俺がケンカでしょっぴかれなきゃならねーんだ、くそっ!? おまけにあのクソ兄貴っ!」 ここから回想。 『あ、もしもし警察ですけど。仕事中に申し訳ありません。実はお宅の弟さんが…』 『ウチにそんな弟はいないので煮るなり焼くなり犯すなり好きにしちゃってください。あと伝言よろしく。強く生きろ赤の他人、さいでに泊まってけ。兄は忙しいのだ。以上』 『……だそうだが?』 警官が同情したような目で見る。 『チクショーッ!?』 『なんかお前も大変だな……まあ強く生きろ少年』 短いが回想終わり。 「あーくそ、気分悪っ」 足元に転がっていた空き缶を思いっきり蹴飛ばす。からん、といい音を立てて盛大に転がっていく。 空を大きく飛んだ、わけではないのはご愛嬌。 「きゃっ」 空き缶が転がった先から、女の子の声が聞こえた。 「んぁ?」 静真がその方向を見る。 「お前は……昨日の」 そこには、沈んだ表情で恋が立っていた。 「あの……昨日は、ありがとうございました……」 状況を端的に記すと、恋が男たちに連れ込まれたときに静真が都合よく現れて助けた、 ただそれだけの話である。うん、よくある話だ。 ただ、ちょうど静真が腹の虫が最悪に悪かった時だったので路地裏どころか表通りでの大乱闘になってしまい、血ぃ出るわ粗大ゴミは飛ぶわの大立ち回り。 恋はそのあまりの乱闘ぶりに怖くなって逃走。まあ小学生の女の子だから当然といえば当然である。 かくて、「女の子を助けに入った」という美談部分は被害者逃亡のために無かったことになり、あとはものすごい大乱闘だけが残る。かくして見事に警察行き。 いちいち女の子を助けに入った、とあえて言うのもかっこつけてるみたいでなんか嫌だし、相手の男たちは自分らの悪事を自分から吐く訳もない。 ギャラリーのみなさんは事情を知らず喧嘩しか見ていない、かくして単なる傷害事件の出来上がり、というわけであった。 まあ、静真や相手が未成年の高校生なのが幸いであった。相手は元々普段から素行の悪い不良たちであったため、静真も停学ぐらいで済むという話。 ちなみに、いまさら停学になった所で問題はない。何故なら皆勤賞の野望は先月に兄によって阻まれてしまったからである。おのれ。 「ま、そういうわけだから気にするなよ。元々ムシャクシャしてたから丁度いい、ってばかりに自分で売ったケンカだし。だからお前にどうこう言うつもりはねぇし」 静真は歩きながら恋に言う。 「でも……」 「そうよ。静真の自業自得だもの。貴女が気にする必要はないわ」 静真の鞄から声がする。 「!?」 「おい、ベル…っ、外で出るなって」 静真の静止も聞かず、カバンのジッパーが内側から開けられ、小さな人影が飛び出す。 「武装…神姫…?」 静真の肩にのったそれは、悪魔型、ストラーフタイプ。 ただひとつ違うのは、ボディがまるでアーンヴァルタイプかのように、白い事。そして、巫女服のような神姫サイズの衣服を着ていることだった。ちなみに、巫女服のような、と称したのは、袴部分がミニスカート状になっているからである。 「ええ、そうよ。初めましてお嬢さん。私はベル。よくありそうな名前なのは静真のネーミングセンスの悪さだから気にしないで」 「だからお前はオーナーを敬うって気持ちをだな…ん? どうした?」 恋がベルを凝視していることに気づいた静真が問いかける。 「いえ……なんでもないです」 「なんでもないことないだろ。あ、いやな、この服は俺の趣味じゃないぞ、こいつが服を着せろってうるさくて」 「そうじゃないんです。ただ……ちょっと、思い出してしまって」 「武装神姫…?」 「はい……」 それきり、恋はしばらくの間、口を閉ざす。ややあって、ぽつり、と言った。 「私も、神姫が欲しかったんです。そして、その願いはかなったけど……」 「けど?」 「……殺されたんです。いきなり襲われて。 わかってる、本当はそれでよかったんだって。私は……でも、それでも、あの子は私の友達だった…」 (……) 事情はわからない。静真にはわかるはずもない。彼女はきっと色々な事があったのだろう。 その傷は彼女自身のもので、知り合ったばかりの自分が口を出していいものではないのだろう。 (でもまあ、ほっとけねぇよなぁ) 関係ないと突き放すのは簡単だが、それはなんというか嫌だと思う。美学、なんて大層なものじゃない。性分、ってやつだろう。 静真は恋に追いついて言う。 「恋ちゃん、だったっけ。今時間ある? ちょっと見せたい、面白い場所があるんだけど」 「レンタルシンキブース…?」 恋は、その店の看板を読み上げる。 「ああ。ま、入って入って」 「お邪魔します…」 自動ドアの前に立ち、中に入る。すると、 「いらっしゃいませにゃーーーっ☆」 いきなり、甲高い声が響いた。 テーブルの上にさらにテーブル。小さい。そしてそこに猫型MMS、マオチャオが座り、笑顔で手を振っている。 「ここは…? え、ええと、こんにちは……」 「うにゃ。お客さん初めてだネ? アタシは受付嬢のマオファ。よろしく。んー、しかし…しずっち、まさかお前さんがロリコンだったとは痛たっ!?」 静真のデコピンがマオファに炸裂する。 「黙れバカ猫。香織さんは?」 「てんちょーならすぐくると思うけど。それよりも誰がバカ猫だにゃ、だいたい…」 「え、ええと……?」 展開においつけずにうろたえる恋。 そのとき、受付の奥のドアが開く。 そこから現れた20代半ばぐらいの眼鏡の女性が、マオファをひょい、と掴みあげる。 「うにゃ?」 「はいごめんねー。あら静真君じゃなーい、久しぶりやなー。何やそちらのお嬢さんは? 何、キミロリコンやったん?」 「はははははははははあんたら揃いも揃ってなあこんちくしょう」 「日ごろの行いね」 「てめぇまでっ!? あー、ごほん。えーと、ここはだな」 「まあまあ」 女性…香織が静真の言葉をさえぎる。 「百聞は一見にしかずや。見てもらったほうが早いし、びっくりすると思うけどな?」 「わぁ……」 思わず声が漏れる。 広い部屋は、デパートや遊園地の遊具スペースのような様々なおもちゃが置いてあり、そこには子供たちと、武装神姫が遊んでいた。 「武装神姫……こんなに」 「そや。たくさんおるやろ? この店はな、武装神姫を貸し出して遊んでもらう店やねん。 ある意味、神姫たちの孤児院みたいでもあるわな」 「孤児院…?」 香織に続き、ベルが言う。 「そう。ここの半数の子たちはね、捨て神姫なの。人間の都合で捨てられた子、飽きられた子、壊されてそのまま廃棄を待つだけだった子……それを物好きなこの人が、借金してまで買い集めたりあるいは貰ったりして来て」 「ベルちゃんあのな。物好きはないやろ」 「じゃあ酔狂、ね。新しく売るんじゃなくて、子供のお小遣いで借りれるような金額で貸し出すなんて、酔狂もいいところ。儲け、出てないんでしょう? まったく、理解できないわ」 「あいかわらず言うことキツいなぁ。まあソコがかわいいんやけどね」 「そぅかぁ?」 静真が嫌な顔をする。 「そうや。んーと、こほん。まあそんなワケでな。武装神姫って、結構高いやろ? 特に拡張パーツやらなにやらそろえたりとかはとても子供じゃ無理や。 親に買ってもらえたり、お年玉貯金でどうにか出来る子はまだええ。 でも買えん子はぎょーさんおる。わかるやろ」 「はい……」 「そんな子たちのためにやな、武装神姫を貸し出して、遊んだり話したりする店や、ここは。 武装神姫は人間の友達、パートナーや。人間は、特に子供たちはもっともっと神姫と触れ合わなあかん。ロボット技術が発達して文明が豊かになっても、大切なものは何も変わらん。 心や。心と心の触れ合い、コミニュケーションが大切や。 そしてせっかくの心をもった人間のパートナーとなれるロボット。こりゃもう、触れ合う機会はあればあるほどええ。違うか?」 「違わないと、思います…」 目を輝かせる香織に、恋も頷く。 「まあ、えらそな事言うとるけどな、確かにベルちゃんの言うとおりに酔狂かもしれへん。 だけど見てみ。ここに来てくれる子供たちの笑顔。 私はこれが見たくてこの商売やってんねや」 香織に促されて、恋は見回す。 確かに、そこには笑顔があった。 ……私も、あんなふうに笑えるのかな。 恋は思う。 思えば。サマエルと共にいた時、私はこんな風に笑えていただろうか。 覚えていない。 それが、寂しかった。 この店には、神姫サイズの遊戯場から、神姫のオンライン仮想バトルの機械まで揃っていた。 バトルに関しては店の性質上、公式リーグへの登録は行わずにオンラインでの草バトルを行っているらしい。 確かに、レンタル屋という性質上、ひとつの神姫のオーナーは毎回変わるし色々と面倒だから、だ。だがそれで特に不都合はないとのことである。 確かにこの店の客層は、いずれ神姫を購入し公式リーグで戦うための練習を行うユーザーや、単純に神姫と遊ぶ目的の子供などが大半を占めている。 まあ、中には…… 「はぁはぁ犬子たんの素体萌え~」 「お股を開いたり閉じたりさせて下さい!」 なんてのもいるのだが。あ、撃たれた。 閑話休題。 客はここに用意されている神姫たちを指名して借り受ける。値段は、店内では一日500円、一泊二日で800円。 人気のある神姫は中々借りることもできないのも、「レンタルビデオ屋と同じ」である。 そこ、間違ってもホ○テ○みたいと言うな。 「……」 だが、恋はその光景を黙って見ているだけだった。 お金は確かに、神姫と遊ぶくらいのお金はある。しかし、どうにも気が乗らないのだ。 考えることが多すぎる。考えてしまうことが多すぎる。 捨てられた神姫。壊された神姫。ここにいる大半は、そうして死んでいく運命だった成れの果て。 捨て犬。捨てられたペット。ゴミ。いらない子。 そういう単語が次から次へと浮かぶ。 だから、思ってもいないこと、思ってはいけないことが次々と浮かぶ。 サマエルの眼差し。友達だった。友達だった? 本当に? あの女は言った、操られていると。 それは嘘。私は自分の意思で。自分の意思で? 自分の意思で多くの神姫を操った? 違う。 何が違うの? 友達? 笑わせる。道具のように扱った。道具のように扱われた。だから道具のように。 友達という言葉で隠して、自分の醜い欲望を隠して。 何が違う。 ここにいる神姫たちを捨てたオーナーたちと……何が違う! ――何も、違わない。 だから私は、ここにいる子たちのように笑う資格はない。笑う権利もない。 「お、おい恋ちゃん!?」 恋は、罪悪感に苛まされて立ち上がり、走り去る。静真はあわてて後を追おうとするが、しかしベルに止められた。 「放っておきなさい」 「でもよ……!」 ベルは神姫サイズの湯のみにお茶を淹れて飲みながら静かに言う。 「構って慰めるだけが優しさじゃないわ。どんな物語も、乗り越えるのは本人よ」 「だからって、見捨てられるかよ」 それに、ここに連れてきたのがまずかったのかも知れないし。そういう静真にベルは平静に答える。 「見捨てるのと放っておくのは違うわ。それにね静真、あなたは彼女をここに連れてきた、それでよかったのよ。 どんな形であれ、前進することはいい事よ。ただ立ち止まるよりは」 後は、道を間違ったり踏み外すようならそのときに支えてあげればいい。でも、今は違う。 ベルはそう続けて、お茶を飲み干した。 「――――でも、それでも。賢い思考よりも愚直な行動を取るのよね」 律儀にも聞くだけ聞いた後で再び追いかけて走り去った自分のマスターを見送る。 「本当に愚かで――――人間って、本当に理解できないわ」 その光景を香織はカウンターで眺めて、思う。 確かにそうかもしれへんな。でもね、ベルちゃん? そう憎まれ口を叩くあんたの顔、いっぺん鏡見てみぃや。 すごく、優しい……いい顔、しとるよ? 「はぁ、はぁ……」 走った。恋は荒い息を整える。ここはどこだろう。 まだ店の中、建物の中のようだ。 「倉庫……?」 暗い部屋の中に陳列された棚。神姫のパーツやそのほかの玩具が並んでいる。 「誰」 「!?」 恋の耳に声が聞こえた。 「誰……誰かいるの?」 「人間は質問に質問で答えるのか?」 恋の言葉に、声は答える。 やがて恋の目が暗闇に慣れる。棚の奥に、それは座っていた。 「神…姫?」 犬型MMS、ハウリン。それが棚に座っていた。 「そうだよ。見れば判るだろ」 その神姫は、ぶっきらぼうに言い放つ。 「用がないんなら出てけよ。オレは人間は嫌いなんだ」 「人間は、嫌い……?」 「ああ。好きになれって言うほうがどうかしてる。勝手に作り出して勝手に戦わせて、勝手に捨てる。 どの道壊すのなら、心なんて付けるなって言うんだ」 「そう…嫌いなの。 気が合うね、私も……嫌いになったところ、人間がじゃなくて、自分自身がだけど」 「はぁ?」 その言葉に、神姫は怪訝そうに声を返す。 恋は、ゆっくりとそのハウリンの元に歩き、腰を下ろす。 「あなたの言うとおりだと思う……人間(わたし)は、本当に身勝手で。 私も……自分の気持ちしか考えなくて。ずっと一人だったから、だから……自分のさびしさを埋めるための道具としか見てなかったんだと思うの。 それに、もっと早く気づいていたら……そしたらあの子と、本当に友達になれてたのかも……」 「……よくわかんねぇけどお前も大変だったんだな。 いつだってそうさ。気がついたときには遅すぎる。 オレだって、マスターとは強い絆で結ばれてた。そう思ってた。……オレの場合は、気づかなきゃよかったのかもな。 オレがマスターに、道具としてしか見てもらえなかったって。 勝ち続けてきた便利な道具は、一度負けたときにその理由を失うって」 「……」 「オレはね、結構有名なランカーだったんだ。常勝無敗。いずれはトップに近づけるはずだった。 だけど……あの時全てが狂ったのさ。いや、最初から狂ってた、か。 オレのマスター、不正してたんだ。オレも知らなかった。そして本部から刺客が送られてきた。 神姫狩り、ってヤツさ。非公式のハンター。九ツ首のヴァッヘバニー、クトゥルフオブナイン。 強かったよ。それで負けちまってさ。 オレが戦ってる間、マスターはどうしたと思う? 逃げたんだよ。オレを置いてな。ああ、でもそれでもよかった。マスターが無事だったら。 そしてオレは壊れた体を引きずって、なんとか家に戻ったら……笑い話さ。もう家には何も残ってなかった。小さなアパートだったけど、オレたちにとってそこは大切な、帰る場所だったはずなのに。 何もかもなくした、んじゃない。最初からオレは……何もなかった。ただの、捨て駒だったんだ。 それに気づいてしまうぐらいなら、いっそ何も知らないまま壊れて死ねばよかったんだろうけどな」 ハウリンは自嘲する。 「いつだって、遅すぎんだよ。だから……?」 ハウリンは言って気づく。となりの人間の肩が震えていることに。 「お前……泣いてんのか?」 「だって……ごめんなさい、ひどいことして……本当に……」 「……」 その恋の言葉にハウリンは少し黙り、 ばこん。 「痛っ!?」 恋の手を思いっきり蹴飛ばした。 「バカかお前。なにがごめんなさい、だ。お前がやったんじゃねぇ、それとも何か。人間代表のつもりか? うぬぼれんなよ、バーカ」 「バ、バカって……バカって言うほうがバカで……」 「なにベタな返ししてんだよ。小学生かおめーは」 「……小学生です。五年生……」 「……マジかよ。くそ、しくじったな畜生。 あー、まあ、そのなんだおめー。とにかくお前が悪いわけじゃねぇから泣くなバカ。 ……まあ、でもその気持ちだけはありがたくうけとっといてやるよ」 そっぽを向き、ハウリンはつぶやく。 「うん……ありがとう」 「謝ったり礼いったりちぐはぐなやつだな、えーと……」 「恋、です。ひゆき、れん。恋する、って書いて恋」 「そうか。オレは……普通にハウリンでいいよ。名前なんかとっくに捨てた」 オーナーに捨てられたときに。そう続けるハウリンに、恋は少し考えて言った。 「じゃあ……私が名前をあげるよ」 「は?」 「名前がないと、誰からも呼ばれないでしょ。それって、悲しいと思うから」 自分が、そうだったように。 「……ハティ。どうかな。月を呑む狼、フェンリルの仔、ハティ」 「……ハティ、か……」 ハウリンは、その響きを反芻するように何度か口にする。 「気に入らなかった?」 「さあな。だけど、もらえるものはもらっといてやるよ、レン」 そっぽを向きながらハティは答える。その言葉に、恋は笑顔を浮かべた。 「……出番なし、か」 倉庫の前のドアを背に、静真は笑いながらかるくため息をつく。 「ま、邪魔者は退散、かな。追いかけてって何もせずに戻るってぇのは、ベルの奴に色々とまた言われそうだけど……ん?」 立ち去ろうとすると、廊下の向こうから見知った顔の子供が走ってくる。 「静にーちゃん、大変だよ!」 「どうした?」 「なんか怖い男の人達が店に!」 「なんだって!?」 「という訳でしてね。悪い話ではないと思うんですがねぇ」 「どう聞いたって悪い話やろ!」 店の前で、黒服たちの言葉に香織が反論する。 「金の問題やあらへん。私はな、子供たちのために、子供たちに喜んで欲しくてこの商売やっとんのや」 「それが邪魔だっていってるんですがねぇ。正直ね、そういう商売を勝手にやにれると、神姫業界にとってマイナスにしかならないんですよ。 自己満足の偽善で、善良な同業者の邪魔をしないでもらえますか」 「何が善良や、この銭ゲバが!」 香織の怒声に黒服たちは肩をすくめて笑う。 「なんやーーーーーー何がおかしいんやこのすっとこどっこいがーーーーーーー!!!!!!!!」 「だあっ落ち着け香織さん!」 表に出てきた静真が後ろから香織を取り押さえる。 「だからさぁ、鶴畑コンツェルンに逆らったら色々とまずいってわかりませんかねぇ?」 「わかるかいだぁほぉ! 喧嘩売っとんのなら高く買うでぇ! 簀巻きにしてドブ川に頭から放り込んだあとでカー○ル君をさらに上からマッ○ルドッキングのよーに叩きつけてセメントをケツから流しこんだろうかぁー!!!???」 「ストーーーップストッブ、頼むから落ち着けっ!」 「ほう、買ってくれますか。いいですねぇ、ではコトが武装神姫だけに、バトルで決着をつけるというのはどうでしょうか」 「「え゛?」」 香織と静真の声がはもり、止まる。 「自分が喧嘩を買うといわれたのです。まさか嫌とは言いませんよね?」 「……」 拙い。何が拙いかというと、そもそもこの店にある神姫たちはぶっちゃけバトル用に特化しているわけではない。 そもそも香織にそこまでの武装パーツをそろえる資金もない。神姫たちの経験も足りない。 「…………ふ、ふん。当たり前や。女に二言はないで。戦ってやろうやないか、 彼がな!」 「俺かよっ!?」 静真を指差す香織。 「当たり前や、私とマオファがそんなガチバトルなんか出来るかい!」 「……ったく、あーもう、またもめ事かよ、俺は平凡に生きたいってのに……」 わしゃわしゃと頭をかきむしる静真。 「ま、だけどここが潰れるのも困るしな。いいぜ、やってやるよ」 静真が一歩前に出る。ベルもまた構える。だが…… 「おっと、お嬢さんも戦ってもらうに決まってるじゃないですか。誰が一対一といいましたか?」 黒服が笑い、指を鳴らす。後ろに停めてあった車から、二人組の男たちが出てきた。 「な……?」 「二対二のタッグマッチ、ですよ」 「聞いてねぇぞ!?」 「言ってませんからねぇ。でもバトルを受けるといったのはあなた達ですからしたがってもらいますよ?」 「……どこまで腐ってやがる、てめぇら!」 「さてねぇ。鶴畑に逆らうから悪いんじゃないでしょうか? さて、それでは始めましょうか」 「っクソ、仕方ない。香織さん、とにかく俺たちがなんとかするからマオファは後ろで…」 「待ってください!」 割り込んだ声は、恋のものだった。 「……恋ちゃん?」 「私が、戦います……」 そこには、ハティを手に乗せた恋が立っていた。 「……無理だ。だいたい……」 「非公式バトルなら、私にも経験が、一応ありますから……」 半ば操られていた夢うつつだったけど。 「それに……ここに来たばかりで、私、まだここで一度も遊んでいない。なのにここが無くなるなんて……この子も、ハティも……戦ってくれる、って」 「イヤイヤだけどな。オレみてぇなはぐれモノは行く場所なんてねぇ。少なくともそこのバカネコよりは戦える」 「あなたたち……本気なんか?」 「はい」 「ああ」 香織の視線を受け止め、うなずく。 「おい、ちょっと……」 「よっしゃあ! 細かい経緯は知らんが、なんかもう100人力や!」 「香織さん、いやそれは」 「静真くん、あんたも男なら覚悟ぉ決めぇや!」 「いや、だからオレの覚悟は決まってますけどね、だけどそれとこれとは」 「静真。どのみち戦うしかないのよ。だったら……まだあの子のほうが、香織とマオファよりはましなのは判るでしょう?」 「……とことんまでみんなして俺の意見は無視かよ。あーわかったわかりました! こうなったら覚悟決めるさ」 ため息ひとつ。しかしこうなればやるしかない。 「ふん、しかし…」 車から出てきた目つきの悪い男が言う。 「どんなのが相手かと思ったら、ほぼ素体じゃねぇか」 「本当だね。これなら俺たちが用心棒でくる必要もなかったかな?」 その揶揄に静真は、ただ不敵な笑顔で答える。 「言ってろ。油断は命取りだぜ。いくぞ、ベル、恋ちゃん、ハティ」 「ええ」 「はい!」 「ああ……!」 構える四人。対する男たちもまた構える。 非公式試合、開始。 悪魔型MMS『ベル』 犬型MMS『ハティ』 VS 天使型MMS『シザーウイング』 天使型MMS『リッパーリング』 このバトルは非公式試合である。 そのため、戦闘結果によるポイントの付加・ランキングの変動は行われない。 シザーウィングは後背部のウィングに武装を集中させたタイプのアーンヴァルだった。 羽の一本一本が鋭利な刃物であり、それを射出する遠距離攻撃および剣として使う近接攻撃の両方を扱うタイプである。 対するベルは、ほぼ素体のみ。武装は小型の刃物を幾重に重ねた扇がふたつ。盾としても剣としても使えるそれだが、シザーウィングの攻撃を防ぐのがやっとであった。 「ははははははは! どうしました!」 実弾の羽毛を撃つ攻撃、それゆえに弾切れを誘う予定だったが、シザーウィングは両手や肩に装備した重火器も撃ってくる。 この弾幕を防ぎきるだけの余裕はなく、衣服の端も次々と切られる。 「……っ、本当にしつこい攻撃……!」 地を蹴り後退するベル。彼女の居た場面を羽の刃が次々とえぐっていく。 リッパーリングは両腕をストラーフタイプの腕へと換装し、剣を装備した近接格闘特化のアーンヴァルだった。 高出力の格闘攻撃を、ハティは両手に持った剣で捌く。 「くっ、間合いが長げぇ……!」 リーチはどうしてもリッーパリングに分がある。ハティもまたその攻撃を受けるだけで精一杯。 ベルもハティもどうしても防戦にまわざるを得ない。まずい状況だった。 「ははっ、口ほどにもない!」 男が笑う。 「そもそも鶴橋の金の力でガッチガチにチューンした俺たちの神姫にかなうはずないんだよね。何カッコつけちゃってんだか、そういうのを自己満足って言うんだよ」 「……ふん」 しかし静真は、真っ向からその嘲笑を受け止める。 「ああ、確かにな。自分でもバカだとは思うさ。だけどさ、男なら」 掌を突き出す。 「退けない事もある。カッコつけだって笑うんなら笑えよ。 醒めた振りして言い訳に逃げるほど、俺は大人じゃねぇんでね、悪いけど!」 「はっ、言うだけならなんとでもならぁな。だが現にてめぇの神姫は――――あ?」 キィ――ン、と耳鳴りが響くことに男は気づく。いや、耳鳴りではない。これは――飛行音。 「やっと到着したか…! ベル、来たぞ!」 「まったく、ずいぶん待たされたわね!」 ベルが扇子で攻撃をはじき、一気に後方に跳躍する。 その上空に飛来するのは、アーンヴァルのレーザーライフルを主軸にウイングやストラーフの手足などで組み上げた、純白の飛行機だった。 その名、フリューゲルヴァイス。 ベルは跳躍し、巫女服を一気に剥ぎ取った。 純白の素体があらわになる。 「合体コード起動! 汝、東守護せし魂の運び手!」 静真が叫ぶ。その言葉に従い、MMSの自動合体システムが起動する。 ベルもまた唱える。 「闇に落ちて尚輝くは白き翼。我らは誓う」 「絶望に突き立てし暴食の牙! その手に掴みし切なる希望!」 戦闘機を構成するパーツが空中で分離。 ベルの脚にはストラーフ脚部装甲。 胸と肩、腕にはアーンヴァルの装甲。背にはストラーフのバックパックとアーム、そしてアーンヴァルの背部ウイング。 白く輝くそれらのパーツがベルの体を包み、装着されていく。 そこに現れたのは、翼を広げた、一回り巨大に見える威容。純白の魔神の姿。 「「その名――――白亜の翼、ベルゼヴァイス」」 「何…!? 白い、ストラーフだと……!」 「そのようなハッタリ――!」 シザーウイングが撃つ。圧倒的な火力物量。次々と着弾し、爆発が巻き起こる。 「はははははははははは!!!!!! このシザーウィングに切り裂けぬ敵など……!?」 煙が晴れる。 ただ、悠然と。 白亜の翼は、そこに立っていた。 「な――――、にぃ……!?」 「これで全力? 受けてみたら思ったより火力が低いのね」 冷徹に言い放つベルゼヴァイス。 「遊びは、ここまで。後悔なさい、ゆっくりと」 リッパーリングの一撃が大地を切り裂き、砕き、そしてハティを叩き潰す。そのリーチを活かした高速連続攻撃に土煙が舞う。 「どう? 潰れてモンチになったぁ!?」 「ハティ……っ!」 恋が叫ぶ。土煙が晴れる。そこには切り刻まれたハティの姿が――――なかった。 あるのは、リッパーリングのアームを、交差した剣で受け止めているハティの姿。 「なんだ――――つまらない。 しばらくオレが戦場から遠ざかってる間に、神姫の質は落ちたのか?」 バキィン、と音がしてアームが砕ける。 「ぐああっ!?」 「ああ、あの時のアイツに比べたらカスもいい所だ。せっかくのオレの一大決心をどうしてくれる。 これじゃあ、あまりにもつまんねぇーだろうが!」 ハティが跳ぶ。その高速の跳躍にリッパーリングの動体視力は追いつけず、容易に懐への侵入を許してしまった。 「くたばれよ、トリ野郎」 「バ、バカな……っ!? あいつら二人とも上位ランカーだぞ!?」 黒服がうろたえる。 簡単な仕事だったはずだ。急に飛び込んできた、事業の邪魔者を排除するだけの簡単な仕事。 なのに何故―――― 「敗因は、ただ一つだよ」 静真が言う。 「金や権力で肥え太ったブタには、判らねぇだろうな―――― 必死に生きるちっぽけな者たちの底力が」 そう告げる静真の言葉と同時に。 シザーウイングとリッパーリングが、戦闘不能となり、地に伏した。 勝者、悪魔型MMS『ベルゼヴァイス』&犬型MMS『ハティ』。 このバトルは非公式試合である。 そのため、戦闘結果によるポイントの付加・ランキングの変動は行われない。 賭け試合のため、敗者である鶴畑グループはレンタルシンキブースへの干渉権を放棄するものとする。 「まったく……楽しませてくれる」 モニターでその一部始終を、男は見ていた。 「他人事みたいに言うね。キミだろ? 鶴畑をけしかけたのは」 「さて、どうだかね」 黒い服に身を包んだ青年のからかうような声に、彼はこともなげに答える。 「こうやって、あの白いストラーフを公式リーグに引っ張り出すつもり? 身内びいきは程ほどにしておいたほうがいいんじゃないかな」 「あの少女をけしかけたお前に言われたくはないな。道化はでしゃばらないのではなかったか、「無価値(ワァスレス)よ」」 「でしゃばらなきゃ何のための道化さ。ま、確かに些細なことだよ。キミもこれで満足なんだろ? 桐沢一真(かずま)」 「さぁな」 眼鏡をなおし、一真は席を立つ。 「しかし利用された鶴畑も哀れだね。グループの下っ端とはいえ、これじゃ面目丸つぶれ……でもないか」 「ああ、所詮はただの下っ端。痛くも痒くもないだろうさ。 さて、計画の見直しだ。面白くなってきそうだとは思わないか?」 「違うね」 一真の言葉に、無価値は平然と言った。 「物語は、最初から面白いものなのさ」 「恋ちゃん、手ぇ」 「え?」 言われるまま、手を出す。静真は、それを勢いよく叩いた。 「ミッションコンプリート、ってな。よくやった!」 「え、でも私は何も……」 「そんなことないわ、恋。あなたがいて、ハテイを信じて見守った。あなたの勇気と信念が彼女に力を与えたの。そうでしょ?」 「オレが知るか」 ハティはそっぽを向く。その姿に、恋は微笑む。 「いっやーーーーー、私感動したわーっ! 二人ともバリ強やん!」 いきなり、香織が二人をがばっと抱きかかえる。 「うわっ!?」 「きゃっ!?」 「ああんもう私めっちゃ感動したわーーーー!」 「だああっ、ちょっと落ち着け香織さん、痛っ、ていうかあたってるあたってる!」 「くっ、くるし……」 騒ぎ立てる香織たち。 それを呆然と、憎憎しげに見つめるシザーウイングのオーナー。 「バカな……オレが、負けた……!? 再起動だ……シザーウイング! てめぇもこのままで終わらせるワケにゃあいかねぇだろうが!」 男の言葉に、シザーウイングは無理やり体を起こす。そして、砕けたウイング部分の刃物を掴み、走った。 「――!?」 香織の凶行に気を取られていたベルは、反応が一瞬遅れる。 手負いとはいえ、その一瞬で十分。その刃がベルに食い込む――――はずだった。 ギィン、と甲高い金属音。 刃が地面に落ちる。 「な……!?」 黒い影が割り込み、その凶刃を防いでいた。 漆黒の甲冑。陽光を照り返して尚黒く輝く装甲に身を包んだその武装神姫は。 「サイフォス……? 何でや、まだ発売されとらんのに」 「それは、彼女が我が社の試作品だからです」 凛とした声が響く。いつのまにか新しい車がそこに停まっている。そしてそのドアが開いた。 「それにしても。鶴畑の人もずいぶんと往生際が悪くなったものですね」 現れたのは、静真と年のころが変わらない美少女だった。 「なんだ、てめぇ……!」 男が叫ぶ。その殺気を少女は受け流し、名乗った。 「篠房留美那(しのふさ・るみな)と申します。そして彼女は、騎士型MMSサイフォス、「エクエス」。 以後、お見知りおきを」 続く
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-5 神姫センターのフロア内を、色とりどりのレーザーが駆け巡る。 観衆の期待が膨らむ中、鳴り渡るファンワーレ。筐体上部に設置されたスクリーンに <MAYANO SPRING CUP ~THE JUNIOR S FINAL~> の文字が刻まれると、その高まったボルテージが一挙に解放された。 『さあ、いよいよ決勝戦となりましたマヤノスプリングカップ・ジュニアトーナメントッ! この試合に勝利し、武装神姫ジュニアユーザーの頂点に立つのはどちらのチームだぁぁぁっ!』 スクリーン画像が切り替わり、筐体の一角にスポットライトが浴びせられる。 『この舞台に立つのは、やはりこのチームだった。マスター伊吹舞と有馬シュン、神姫ワカナ&ゼリスっ! 当神姫センター上位ランカーと大会初参加のニューフェイスの組み合わせというこのコンビ、決勝ではどんなバトルを魅せてくれるのかぁぁぁっ!!』 スクリーンに映るワカナとゼリスの姿に声援が送られる。続いて、今度はティグリースとウィトゥルースが映し出される。 『それに対するのは西からやってきた双子チーム。マスター金町笑太と福太、神姫アテナ&リアナだっ! 先月関西から引っ越してきたばかりというこの兄弟は、そちらの大会で優勝経験もある強豪だぞっ! この風雲児たちが、大会に嵐を巻き起こすのかぁぁぁっ!?』 司会のアナウンスに応じるように、金町兄弟は観客に向かって勢いよく手を振る。 「会場のみなさん、よろしゅうな~!」 「オレらめっちゃ頑張るんで、期待したってや~!」 元気に声を上げる笑太と福太。続いて神姫たちがモニターに向かってアピールする。 「ウチが関西仕込みのバトルをみせたるで! 寅は西の守護神やしなっ」 「ううっ……アテナちゃん。西の守護神は白虎で、寅の方角は北東のことですよぉ?」 リアナの指摘にアテナが「それを早く言わんかいっ」と逆ツッコミで返す。 ひょきんな笑顔で挨拶する双子と神姫たちの愛嬌たっぷりな姿に、群衆のあちこちから笑いと拍手が送られる。 「……あのふたり見かけない顔だと思ったら、最近引っ越してきた子だったのね」 「しかも、向こうじゃ相当な実力者だったらしいな。道理で自信があるわけだ……」 筐体のシートで伊吹と会話しながら、シュンは対戦相手を睨む。いずれにせよ、油断ならない相手には違いない。 チラリと観客たちに目を向ける。そこでは妹の由宇が試合を見守っている。 シュンの視線に気がついた由宇が手を振った。それに軽く頷き返し、彼はエントリーボックスに向かう相棒に声を掛ける。 「いけそうか、ゼリス?」 「はい、流石はユウです。これならば全力で戦えます」 武装の調子を確かめながら、ゼリスは自信ありげに答える。 由宇は宣言通り、この短時間のインターバルでオーラシオン武装を万全なコンディションに仕上げてみせた。これは兄として妹の分まで頑張らないとな。 「ぜっちゃんの調子もばっちりってことで、飛ばしてくわよワカナ?」 「アイアイサ~、だよ~」 筺体内にエントリーしていくワカナを見送る伊吹。 「さあ、シュッちゃん。準備はいい?」 これから始まる試合を楽しむように不敵な笑みを浮かべる彼女に、シュンは大丈夫だとガッツポーズで答える。 「ああ、やってやろうぜ!」 「ふふ……じゃあ、行くわよっ!」 4人のマスター、4体の神姫がそれぞれ配置につく。 『さて、ここで大会本部から大発表。な、な、なんと! 決勝戦は今回特別に用意されたスペシャルステージが使用されるらしいぞぉ! この未知のバトルステージが、果たしてこの試合にどんな影響を与えるのかぁぁぁっ!?』 司会者がここぞとばかりに大音量のマイクパフォーマンスで盛り上げる。観客たちの歓声が、熱狂の渦となって会場を包む。 沸き立つ会場とは対称的に戸惑いをみせる神姫たちの足元で、フィールドがワイヤーフレームと化しながら再構成されていく。 「これって……台所?」 シュンの目の前で再構成されたバトルステージ、その姿は一般家庭のキッチンそのものだった。 シンクに浸る食器、まな板に転がる包丁と野菜、大型の冷蔵庫に張られたホワイトボードには晩御飯の献立まで書かれている。 まるでどこかの住宅から持ってきた台所を、そのままゲーム筐体内に収納したかのようだ。 「……誰がこんなマニアックなステージ考えたんだよ」 「でも、意外とウケてるみたいよ?」 伊吹の言う通り、観客の反応は悪くないようだ。 子どもの日だけに親子連れが多く、主にそうしたお客さんたちはこの意外な最終ステージをおもしろがって喜んでいる。その点では、客層と需要を見越した良い趣向なのかも知れないが……。 「問題ありません。例えどんなステージであろうとも……要は、勝てばいいのでしょう?」 あっさりと言い切るゼリスに、シュンは苦笑する。 『それではマヤノスプリングカップ・ジュニアトーナメント決勝戦……試合開始ですっ!!』 大歓声と共にスクリーンに<GAME START>の文字が表示される。 それと同時に、4体の神姫が一斉に飛び出した。 真っ先に動き出したのはウィトゥルースのリアナだった。 「せ、先手必勝ですよぉ」 丑型MMSウィトゥルースの武装は、大型砲を装備した砲撃戦タイプ。 だからこそ一刻も早く有利な地形に陣取ることで、イニシアティブを得る。フロートユニットは加速力はないが低空をホバリングすることで障害物を無視できる、つまり目的地までの最短距離を移動可能なのだ。 目指すはこのフィールドで最も高い座標――大型冷蔵庫の上。 リアナは近くの踏み台や棚を越え、砲撃に最も適したその場所へ向かう。 「させないの~っ」 それをマオチャオのワカナが追いかける。 相手の策をいち早く看破した伊吹の命を受け、ワカナは獲物を狙う猫さながらの動きで障害物を飛び越え、さらに研爪(ヤンチャオ)を鉤爪代わりに引っかけ棚をよじ登る。 みるみるうちにワカナとリアナの距離が詰まっていく。 「残念、それはウチの台詞やで!」 その横から、出し抜けにティグリースのアテナが飛び出した。 寅型MMSティグリースは武装をリアユニットに集中させることで、ブースター推力を高めた強襲形態になることができる。アテナは一気にワカナに並ぶと、そのままリアユニットのサイドパーツを両腕に装着。大型ガントレット炎虎甲で殴りかかる。 その拳撃を、ワカナは自らも拳を合わせることで迎撃。 ――激しくぶつかり合う炎虎甲と研爪。 衝撃で双方ともに吹き飛ぶ。その隙にリアナは悠々と前進していく。 「ははっ、アンタの相手はウチがするで」 「――では私は、遠慮なく通らせてもらいますね?」 ドヤ顔でワカナと対峙するアテナ、その頭上を白い影が飛び越えた。 装甲を輝かせ、オーラシオンのゼリスがフィールドを駆ける。慌ててアテナが追おうとするが、今度はそれをワカナが阻止。 その間にゼリスは一足飛びに棚を飛び越えた。 オーラシオン武装の両肩アーマーに搭載されたアークジェットが、空中での姿勢制御と同時に推進剤を噴射――放たれた矢のごとく一直線に加速。 冷蔵庫の頂へ手が届く寸前だったリアナに、強烈なキックをお見舞いした。 バランスを崩したリアナは地上――キッチンの床に落下する。 辛くもフローリングに軟着陸を果たしたリアナに、アテナが駆け寄る。そこから離れた地点ではゼリスが繰る繰ると華麗に着地、続いてその隣にワカナが飛び降りてくる。 「ふん、やるやないかい」 「ただの挨拶代りですよ」 憎らしそうに睨みつけるアテナに、ゼリスは涼しい顔で返した。 「なんや、お兄さんも人が悪いなあ……」 「せやせや。あんな機動力ありながら、今までの試合では隠しとったんか?」 「……別に隠してた訳じゃないさ。ちょっと本調子じゃなかっただけだよ」 先手を取る作戦が失敗した双子は不満そうだが、事実――シュンも万全な状態になったオーラシオンがどれだけの性能を発揮できるか分からなかったのだ。ゼリスは平然としているが、正直ちょっと冷や冷やした。 そんなシュンの気持ちに気づいてか、ゼリスがこっそり片目をつぶる。 (……心配ないから、安心しろってことか) シュンはゆっくりと息を吐きながら心を落ち着ける。どうやらオーラシオンは、想像以上にゼリスの力を引き出せているようだ。ならばここからが本番。 アテナとリアナはこちらを警戒するように攻めてこない。ゼリスとワカナはジリジリと移動しながら隙をうかがう。 開始直後の攻防から一転、フィールドで繰り広げられる静かな駆け引きに、会場の空気がピリピリと張りつめていく。 神姫たちは互いに牽制し合い、故に攻撃に転じるキッカケがつかめない。そして彼女たちは、そのキッカケを与えてくれるのがマスターの役目であると知っている。 「ワカナ、旋牙(シャンヤ)で突撃よっ!」 「アテナ、風神雷神で迎え撃てい!」 「こっちは援護にまわるで、リアナ!」 それぞれのマスターの指示に従って、三体の神姫が同時に動き出す。 「あっ? えっと……」 その中でシュンはとっさに指示を出すことができず、ゼリスだけが遅れてしまう。 ワカナのドリル攻撃を、アテナが両手に持った剣で受け止める。飛び退くワカナ、その引き際を狙ってリアナの砲撃が着弾。 その衝撃に、ワカナはシールドを張って耐える。 「シュン、ワカナさんを援護しますか?」 「あ、ああ……頼むっ」 一気に攻勢をかけようと剣を振りかぶるアテナ、それをゼリスが右手のハンドガンで狙い撃つ。続けて左で二丁目のハンドガンを取り出すと同時、リアナにも射撃を加える。たまらず相手は回避に転ずる。 「ふにゃ~、助かったよ~」 相手が引いた隙にワカナはいったん後退。何とか窮地を脱出できたことに、シュンは安堵の息をついた。 「シュッちゃん、それにぜっちゃんも。遠慮せずに、もっとガンガン攻めてちゃっていいわよ?」 「りょ、了解……」 伊吹に返事をしながらシュンは焦っていた。 バトルでは一瞬の隙や油断が命取りになる、だからこそマスターの判断力が問われるのだ。さっきのような場面で神姫に的確な指示を送れないでどうする。 足手まといにならないように――それすら出来ないようじゃ、ただの役立たずじゃないか。 そんなシュンの動揺を察したように、金町兄弟がニヤリと笑う。 「なかなかやるやん。けどこの程度じゃ、オレたちには勝てへんで!」 「せや。コンビネーションアタック、受けてみいっ!」 マスターの掛け声に反応して、アテナとリアナが縦に並ぶ。 前衛にアテナ、後衛にリアナがつくフォーメーションだ。 「か、覚悟してくださいよぉ」 リアナが武装に増設されたミサイルポッドから、誘導弾を一斉発射する。 噴煙の尾を引きながら迫る、対空地ミサイルの群れ。ゼリスとワカナは回避するものの、ホーミングする弾頭につきまとわれて振り切れない。 「そこや! いくで、疾風迅雷!」 裂帛の気合を込めてアテナの持つ双剣、風神雷神からそれぞれ衝撃波と雷撃が放たれる。 ミサイルの対応に追われていたゼリスとワカナは反応が遅れ、その直撃を受けてしまう。 「ゼリス!?」 「ワカナ、大丈夫っ!?」 「うにゃああ……ダイジョーブ、なの~」 電撃に痺れたワカナが目を回している。その後ろではゼリスが「少し……油断しました」と顔をしかめている。 「ははは、まだ安心するには早いで~」 「いきますよぉ、バーニングインフェルノですぅ!」 息を継ぐ暇も与えぬアテナ&リアナチームの追撃。 リアナの背負う大型砲、インフェルノキャノンから極太の電子ビームが発射された。 「ちょ、ま……」「避けてっ!」「ふにゃにゃっ!?」「くっ……」 どれが誰のものかも分からない叫びが、爆発にかき消される。 光と爆風の奔流がゼリスとワカナを飲み込んだ。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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戦闘パターンStage20『対空戦』 天使型、鳥人型等の元来飛行を視野にいれている神姫やそのパーツを使い飛行Typeになっている神姫は 高速移動と相手の頭上を征する事が出来る。しかし代わりに命中精度が落ち、その機動力故移動中の受ダメージが大きくなる (それがまず唯一の突破口…) 「マスィーンズ!」 ミレイユを四体のマスィーンズで包囲する。 機動型が翻弄、浮遊二体が挟み撃ち、タンク型が地上から攻撃する。 「あらこれは中々しんどいですね☆でも」 ミレイユは多少かすめるもののほとんど全てかわしている。 しかもその間にマスィーンズが全部打ち落とされた。その勢いのついた所を狙い ドンッドンッ 吼莱の弾丸を放つ。 ミレイユ本体を狙ったとしたら全て外れだが、背中のハイパーエレクトロマグネティックランチァーは破壊出来た。 「まだ色々と甘いですよ☆」 ミレイユはレーザーライフルを背中に戻し、ライトセイバーで高速接近してきた。 「…!撃ち落とすっ…」 吼莱での攻撃を繰り返すが 当たらない。 「はぁっ☆」 ライトセイバーを同時に振り下ろされる。二本共可凜の右肩に命中する 「くっ…!」 犬型の武装装甲は厚い方で中々の防御力を持っている。 しかし長時間熱源が接着している為、徐々に蒸気を上げ熔けだしてきた。 「さぁどうします☆早くしないと腕が無くなりますよ☆」 …笑顔で恐い事を言う。 (くそっ…どうする…?) 俺は何とか打開策を考える。 その間に 「っっっっっぐうぅ!」 ジュアァアァァッ 吼莱を放し、武装腕で直接セイバーを外しにかかる。 荒いが、今はそれしかない セイバーを抑えつつ、可凜は蹴りを放った 「☆」 ミレイユは再び上空に上がる。 焦げた武装を外し、吼莱を素体で拾い撃とうとする。が 上空に向けて吼莱を撃つには素体には重すぎる 何度も挑むが、狙いが定まらない。 その間にもミレイユはセイバーを構え追撃に移ろうとしていた 「素体と武装では腕力が異なるという事に気がつかないと☆」 それはアドバイスだった。 冷静に考えたら何の事はない、素体に合った持ち方をすれば良いのだ、ミレイユの言動が物語っている。 「!……わかった…っ」
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vol2「フェリアの場合」 844 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 24 18 ID 3ip6GDwZ0 1弾→17歳(高3) 2弾→9歳(小4) 3弾→25歳(OL戦士、戦う専業主婦) 4弾→14歳(中3) 5弾→21歳(大学生) 6弾→16歳(高1) イラストでのイメージ 年齢と学年がバラバラなのは気にするな 845 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 25 55 ID 4nqqd8F50 1弾は16歳だろ・・・ 848 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 31 57 ID CG8QBuhF0 29歳がイイナ 849 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 32 23 ID zASH6Ay40 844 6弾→16歳(高1) choco絵で高1はないわー と思ったら丑寅だった クレイドル注文してくる 850 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 33 01 ID erxY7hP90 俺(26)的年齢イメージ 白17 黒17 犬11 猫10 兎23 武24 騎28 砲22 花16 種14 津16 魚34 鳥23 $24 丑19 寅18 建26 A21 Y20 蝶17 こんなもんかなぁ。 851 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 37 04 ID 4nqqd8F50 どんだけ魚姉熟女だよwwww 852 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 53 00 ID 5zK648BX0 850に勝手に便乗。 白17 黒16 忍18 黒白16 白黒16 犬14 猫12 兎20 水犬14 水猫10 武25 騎28 津15 花17 種15 砲18 魚25 鳥16 $21 丑16 寅14 建26 7弾はシラネ 津軽とエウクランテはパパン設定からこうなったけど… イーアネイラが17歳と100ヶ月≒25歳だけはガチ。 853 名前:ぼくらはトイ名無しキッズ 投稿日:2007/09/07(金) 14 53 21 ID HSUpHoWMO それ以来、 850の姿を見たものは居ない・・・・・ ■コナミ_武装神姫_>>PART_115より抜粋 「……」 「どうした?フェリア」 「私って…童顔なんでしょうか?」 「は?」 「私って一般に流通しているサイフォスに比べ、顔が幼く造形されているじゃないですか」 「ああ、それの事か」 風見記はふと、ある日の事を思い出していた。 ――去年の事 「んっふ~。風見記、買いに行くぞ」 「何をだ」 「武装神姫だ」 武装神姫。 MMSと呼ばれる人型ロボットの中で、最近人気を集めている機種だ。 全高約15㎝、小さな身体に武装を持ち、それを振るい戦う。 子供から大人、果てにはお偉いさんも所持する人間のパートナーである。 「ああ、以前流行ったメダロットみたいなもんか」 「…お前、ゲームじゃなくてMMSだぞ」 「え?そうなのか」 風見記は武装神姫をゲームソフトと勘違いしてたようだった。 「最近忙しいだろ?だから事務作業をしてくれるヤツがいた方がいいだろ」 「…つっても、何で武装神姫なんだ?別にMMSで同価格の奴なら別のがあるだろうに」 「そこは、ほら、ゴキブリ退治に」 「お前の汚い仕事場と違って、うちの家は害虫が発生しない」 「綺麗好きめ」 10分後、神姫センター 「これだ!これにする!」 さっそく巻馬が決めたようだ。 手に持っているのは、猫型MMS「マオチャオ」である。 「早い、いくらなんでも決めんの早すぎる」 「お前と違って俺はオタクの道を進んでんのよ!」 「強調するな」 店内を見回り、ふとショーケースに目が行った。 そこに陳列されていたのは、騎士型MMS「サイフォス」であったが、通常の物の比べ顔が幼かった。 手前に置かれている札を見ると 「『現品かぎり、当店オリジナルサイフォス用ヘッド』…」 そこから先、風見記はよく覚えてない。 気がついたら、限定ヘッドと素体、サイフォスの武装セットを買っていた。 巻馬曰く「俺よりも早いじゃん」 「限定品の衝動買いですか…」 フェリアは少し呆れた顔をする。 「んー…まあ、俺の好みだったってゆうか…ほら、アレだ」 「「俺のイメージしていたフェリアと同じ顔だ」…ですよね」 「ん。そうだ」 『フェリア』とは、風見記が執筆するファンタジー小説『フェアリーナイト』の登場人物の事だった。 「『140年ほど前、人の愚かさが具現化したかの如く怪物が現れた。 武器を用いて戦士達は戦ったが、この世のものとは思えない怪物の長「ガィディア」の前に 次々と倒れていった。 その中、橙色の髪を翻し、勇敢に戦いを挑んだ女戦士がいた。 その名はフェリア・リィーフィード』…だったかな」 「完璧です、一句の間違いもありません」 「…『白銀に光る剣を振るい、次々と魔物を切り捨ててゆく。 その姿に人々はある者は底知れぬ恐怖を抱き、ある者は恍惚とその姿に見惚れていた。 ……全てが終るとき、彼女の背中には鳥とも昆虫ともつかない羽を見たと言う戦士が数多く出た。 彼女の剣が相手の眉間を貫いた時、全てが終った。』」 気のせいか、風見記の表情が曇った。 「『これが俗に言われる「ガィディア戦争」である。 戦後の彼女の行方は不明である、相打ちになって戦死したと話す者もいれば、その力に恐怖した国が 幽閉していたと話す者、はじめからその様な人物は居なかったと話す者もいる。 しかし、私は「どこか別の世界に飛ばされた」と思っている』…一巻目序章、主人公の師となる人物の台詞です」 フェリアの表情も、暗かった。 「…」 「…巻馬は要望をよく聞いてくれて、本当にイメージに近い『想像』を描いてくれたよ」 「序章にのみ存在する後姿ですね」 「…伝説である都合上、本編にまだ登場していない設定がある」 「?」 「『彼女』は戦争時、まだ成人すらしていなかった。つまり彼女は少女だ」 「…それで?」 「俺のイメージする『フェリア』ってーのは、非常に曖昧なんだ。天真爛漫な事もあれば、底知れない悲しさを 顔に出すこともある、そして…偶像的なんだ」 「……心にある姿を、捉えられないんですね」 「そうだ」 「マキ…」 「ん?何だ」 「私は…『フェリア』の偶像なんでしょうか?」 「…」 「…」 沈黙 「…何言ってんだよ。お前はここに居る実像、『フェリア』とは違う」 「…そうですか」 「まあ、はじめはそうゆう側面もあった、が、今は違う」 一息ついて、続ける。 「家族…ナゴやケルスが増えてから、お前を偶像としてではなく、俺の恋人か妹と思ってる。」 「!」 「…んー、何て言ったら良いのかな」 「……グスッ」 「え!?」 「グスッ…グスッ…ウウ…」 フェリアは、泣き出していた。 「って、おい!?何で泣いてんだ!?何がいけなかった?」 「グス…違うんです、嬉しいんです」 涙で濡れた顔を向けた 「今まで…心配でした…。マキが楽しそうに『フェリア』の話をするたびに、「自分は偶像なのか」って…」 「アホ。そんな事心配してたのか」 「?え…」 「フェリアはフェリアだ、それ以上も以下も無い」 気のせいか、フェリアには風見記が照れているような気がした。 「…ありがとうございます」 微笑を浮かべながら、言った。 「あらあら、心配無用でしたね」 ナゴとケルスが部屋に入ってきた。 「ここの所、フェリアさんが暗いな、と思って。今のやり取り、ずっと見てましたよ」 「お前な、盗み見はよくない事だぞ」 「承知の上です」 ナゴはあたり前のように言った。 「個人的には年齢の話からそんな話まで発展したご主人の思考がいまいち読めない」 ケルスはフェリアに小声でこう言った。 「負けませんよ、自分」 その後。 3人共クレイドルで眠りについた後、風見記は仕事用のノートPCに向っていた。 開いたものは「フェアリーナイト」の原稿。 風見記は呟いた 「…『フェリア』は、俺の心にある偶像ではなく、お前自信なのかもしれないな」 ToBeContined… 武装神姫でいこう!?に戻る トップページ
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第3話 初めてのおでかけ 日曜だというのに、俺は昼間からベッドに横になってマンガを読んでいた。 アールはというと、床に置いてやったプレイヤーの前に座って、音楽を聴いている。 マンガを読み終わった俺は、新巻が出ていることに気が付いて、ピンと閃いた。 「アール、武装するから机に乗って」 「はい」 アールは返事をすると立ち上がり、机に向かって走る。 そして、ジャンプして椅子に手をかけ、身体を捻り椅子の上へ、さらにジャンプして机の上に行く。 相変わらず見事な動きだ。 俺は、武装パーツの入った箱を持って椅子に座った。 「……マスター…」 アールの声に、ん?と振り向く。 「……あ、あの……やさしく……して……ください…ね……」 潤んだ目を上目づかいで、か細く言ってきた。 俺は、顔が一気に熱くなるのを感じた。 「ば! おま!! な!」 バカッ お前何いってんだ! と言いたかったが、口からはそれしか出ない。 俺が焦っているのを見ていたアールの顔が、にやぁっと笑い顔に変わっていった。 「ぷっ! うふっ ふふふふっ」 アールが笑い出したので、俺はしまったと思った。 「いつも、からかわれているから、おかえしです」 してやったりと笑顔のアール。 「む~、んなことしてると武装してやらんぞ」 「うふふ、はい、ごめんなさい」 謝るアールだが、まだ笑っていた。 「ったく」 俺は恥ずかしさを隠しながら、アールの武装を始めた。 普段は体内にしまわれている接続部を、手首、二の腕、太ももから引き出す。 そこにパーツをくっつけていく。 アールを持ち上げ、長い髪を掻き分け、背中から接続部を取り出すと翼をつけた。 この長い髪も、特殊金属で設定によって長さを変えれるらしい。 足にブースターを履かせて、胸アーマー、ヘッドギアを取り付けて武装完了。 手を広げると、アールは浮かび上がり、俺の頭上で旋回する。 「よし、出かけるぞ」 アールに言うと、ビックリした様子で目の高さまで降りてくる。 「え? 外ですか?」 「いやか?」 「いいえ!」 ぶんぶんと首を横に振るアール。 そして、俺はアールを連れて出かけた。 あまり外へ出したことが無いので、アールはあっちこっちへと飛び回って楽しんでるようだ。 大型家電店の前に来た時、店頭モニターに神姫同士が戦う映像が流れていた。 どうやらどこかの大会の映像らしい。 俺はその映像に見入っていると、アールが俺の頭にしがみついてきた。 「こういうの、嫌いか?」 頭の上のアールに聞いた。 「はい。あまりこういうのは……」 すこし震えているようだ。神姫同士がぶつかり、傷つけあい、オイルという血を流し合う。 そんな映像を見たのだから無理もないだろう。 「ダンス大会なら、アールが優勝なのにな」 「もう! マスターはまたそうやって!」 頭の上で赤い顔で怒っているであろうアールを想像して可笑しくなったが、アールの震えは止まったようだ。 「よし! 次いこう」 アールを頭に乗せたままその場を去る。 目的のマンガやアールが欲しいと言ったアクセサリーを買った帰りに、ふとアールに聞いてみた。 「アール、妹欲しくないか?」 「妹……ですか?」 「ああ、もう一体神姫買おうかと思うんだけどな」 「そうですねぇ、お友達とか妹が増えるのは嬉しいですけど、ちょっと寂しいです」 「なにがだ?」 「……マスターを……独り占め出来なくなりますから」 「ったく、言ってろ」 「うふふふ」 この日、二度目の顔が熱くなるのを感じた俺だった。 戻る 次へ
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本当にどうでもいい設定とか色々 (物によってはネタばれの危険性を含みます。閲覧する際は十分に注意なさってください) カスタムメーカー『Genius Johnny zoo』 BLADEダイナミクス社を定年退職した社員、ジョニーさん(米系日本人)が起業した会社。彩女はここで作られた。 社長を園長、社員を飼育員と呼ぶ不思議な会社。通称天才ジョニー動物園。 余談だが園長はジョニー、副園長はマイケル田中、あとの社員はダニエルとかジョージとかマーフィーとかたくさんいる模様。 でも純正日本人は少ない。なぜだ。 カスタムコンセプトは『とにかく動物。BLADEダイナミクスじゃやらないような動物。あとマッジョ~ラ可愛いの!』で現在十体ほど稼動しているらしい。 麒麟型やマングース型、カモノハシ型などどこかずれたカスタムを連発するメーカーである。 ライオン型はどこかの騎士にどこと無く似ているらしいが定かではない。他にも竹刀を持った虎型などが存在する。 ただし彩女は一品物のオーダーメイドで制作されており、同じタイプは存在しない。 ホワイトファング内における神姫バトル 基本はヴァーチャルバトルオンリー。 リアルバトルは出費がかさむしなにより神姫が傷つくのがいや、という人が多いためである。 筐体内に再現された戦場は現実とほぼ変わらない。そのため小道具(小麦粉やら車やら)も充実しているし、現実と同じように使用が可能である。 神姫の耐水性 塩水につからない限り基本は問題ないが、魚型やイルカ型以外は水に沈む。 魚型の素体を使用しているアメティスタは沈まない。 水遊びをした場合はきちんと拭いてあげましょう。 食事機能 コミュニケーション機能の一部として付加されているが、オプションであり普通の神姫にはまずついていない。 彩女はこの限りではなく初期状態から付加されている。 記四季の自給自足生活 基本自給自足な記四季の生活であるが調味料などはこの限りではない。 鍋などは流石に買っているし一応ガスも電気もネット回線もちゃんと通っている。ただし水は山の湧き水や地下水を使用している。 さらに山で取れる物(野草などの山の幸や熊とか猪の肉)やそれを使って作ったもの(陶器とか発酵食品とか漬物とか)を近所(山の麓)の人たちと交換したりしている。 ご近所さん(ほとんど老人)には仙人と呼ばれているらしい。 北白蛇神社 アメティスタが厄介になっている神社。 北の方から来た白い蛇を祭っているらしいが詳細は不明。 巫女さんズ 北白蛇神社の巫女その①(丁寧な方)とその②(がさつな方)。 姉妹で宮司である剛三の孫で現在高校二年生。 その①(丁寧な方)は漢方薬の調合や神事までこなすが、その②(がさつな方)は境内の掃除が主な仕事。うかつに何かをやらせるとすぐに壊してしまうためである(悪意無し)。 二人ともアメティスタの友人でありよき理解者である。 作中の舞台・記四季のご近所 田舎である。 2036年以降だというのにコンビニなんて当然のように無い。場所によっては携帯電話の電波が届かない。お隣さんが遠い。牛が平然と歩いたり田んぼがあったりとなんと言うか山と森に囲まれたド田舎である。 住民はほとんど高齢者ながら元気に暮らしている。二丁目の矢田さんはバーベルに挑戦しているしタバコ屋のタミさんは寒中水泳が趣味だったり。 作中の舞台・記四季の屋敷 竹山の中にある和風建築。 爺一人と神姫一人で暮らすには広すぎるため、未使用の部屋の一部を倉庫として使用しているらしい。 家から山を降りるまでは二時間。そこからいつものセンターまでは車と徒歩で一時間ほどかかる。 作中の舞台・神姫センター 街中にある普通のセンターである。記四季宅からは三時間ほどかかる。 神姫の武装に限らず神姫そのものも売っていてアフターサービスも万全。品揃えもよく品質もよし、ここにある神姫用医務室は有事に限らず対応や治療(修理ではない)が非常に丁寧だと評判。 ただし行くタイミングを間違うとスキンヘッドのオカマッチョに遭遇するため男の人にはちょっとデンジャー。 しかし女性客には非常に人気である。オカマッチョが。 作中の舞台・記四季の土地 天然記念物が平然と闊歩している天然動物園。 普段彼が住む竹山に始まり奥地には樹海が広がっている。しかし何も手入れをしていないためそこはまさに密林である。 たまにハイカーが迷い込むらしい。 白狼型MMS 彩女のタイプである。 本来なら白いスーツに白い武装を使うらしいが、彩女は紅緒装備が気に入ってるため使わない。 両手に装備したナックルや長刀を使い相手を翻弄する格闘型である。 本来神姫は程度の差こそあれ、格闘や銃撃などある程度の汎用性を見せる。しかし白狼型は火器管制を放棄。その代わりに近接格闘や原始的な武器(刀など)に対する適応性を大幅に上げている。 このため銃はまったく使えないが、近接戦に関しては最高スペックをたたき出すことが可能となった。 ジャンヌとルシフェル この二人は元々ホワイトファングの前に書いていた『ゼロウィング・アーンヴァル』の主人公だった。 オーナーの名前は『来栖ヘレナ(くるす へれな)』。女性なのに神父をやっているらしい。 余談だがジャンヌさんは少々百合のケがあるらしく、オーナーのヘレナとルシフェルは日々警戒しながら暮らしているとかいないとか。 奥義・零閃 彩女が使う技の一つ。要するに凄く早い居合いである。 基本彩女は居合いで戦うが、この零閃こそ二の太刀や防御を一切考えずに放つ最速の居合いとされる。 作中では明記されていないが、エアガンを使用した修業の後に更に加速。便宜上修行前を零閃、修行後を零閃改と呼ぶ。 アシモフコード ロボット三原則のことである。 アメティスタの予知能力 その能力は未来を視ること。 彼女はこの能力を使って神社で働いているらしい。 彼女が視た未来は常に改変が可能なため完全な未来予知とはいえない。だが彼女はそれで良いと思っている。 見ようと思って見る事もできるし見ないことも出来る。しかしたまに無理やり見せられてしまう事もあるようだ。 アメティスタの戦闘能力 皆無である。 勿論殴ったりヒレで叩いたりはできるがちょっと離れられると手も足も出ない。 そのため彼女は相手神姫にハッキング(ルールに抵触しない範囲のもの)をかけ、幻影(映像)を見せて相手の動揺を誘う。でも誘うだけなのでやっぱり戦闘能力は皆無。 だが相手が混乱した際に落とした武器(主に飛び道具)で攻撃する事でどうにか戦っている。 脚部の尻尾に関して“逃げない”という決意の証らしいが・・・ 彩女の体 カスタムメーカー製である彩女の素体は見た目こそハウリンであるが中身は別物である。 センサーの類は一切積んでおらず、五感全てを底上げしている。さらに学習面でもある程度のカスタムがされており、鍛えれば鍛えるほど鍛えたとおりに成長する。 内部の細かい部品等は無闇に高級なものではなく、壊れたさいにセンターに行けば部品がそろうように配慮されている。 ようするにありとあらゆるパフォーマンスがいい体なのだ。 予断だが頭の上についているのが彼女の耳であるが、単に滅茶苦茶よく聞こえる以外の機能は無い。ただし可聴域が他の神姫よりずば抜けているため、他の神姫には聞こえない音を聞き分けられるらしい。 余談も余談だが彼女が好きな曲はAI戦隊タチ○マンズである。 神姫バトル・イレギュラーキャンペーンバトル 開催地である各センター最強の神姫と対戦。 勝者には豪華賞品が!(そのときの商品の在庫状況による。場合によっては何か特別な権利である場合も)というキャンペーン。 ちなみにサラは候補に挙がったが落選。理由は砂漠のみ最強だと砂漠以外のステージに当たったときすぐ負けるから。 この手の企画には必ず都が一枚かんでいるらしい。 神姫バトル・PCを通したネットバトル 神姫を購入した際についてくるソフトをパソコンにインストールするだけ。 基本料金無料ながら、ステージの追加は課金制。 これさえあれば世界中のオーナーと対戦が可能になるが、動作が重いうえにステージが狭かったりグラフィックが甘かったりでメインに使用するユーザーは少ない。 どちらかと言うとチャットルーム(ティールームとも)の方に人気があり、ステージも『公園』 や『喫茶店』など戦闘とは関係ない場所になっており、神姫たちの憩いの場となっているようだ。 神姫バトル・大乱闘スマッシュシスターズ(製品版無双神姫) 基本はレースである。 参加する神姫のレベルによってコースが別れ、長いもので10kmほどの距離を完走する。 だが神姫を使用したレースと決定的に違う点は『障害物』が存在する点である。 この『障害物』は訓練用に用いられるネイキッド素体であるが、『障害物』は武装しておりその動きも訓連用とは比べ物にならないほど俊敏である。その上ネイキッドは無限に出現し、ありとあらゆる方向からプレイヤーを攻撃してくる。そのため前へと進むためには彼女たちを蹴散らすしかない。 道中には五つほど補給ポイントを兼ねた場所を通過する必要があり、一つでも漏らすとゴール扱いにならない。神姫の弾切れや武器が壊れた場合に備え、補給ポイントには弾丸や武器が常備してあるが補給時には隙が大きくなるため注意が必要。 基本は二人一組で挑むと良いだろう。 なおこのルールではどれだけ早くゴールに辿り着いたかも重要ではあるが、道中倒したネイキッドの数やスタイリッシュさも重要なポイントである。 上記の三つのポイントを総合したもので勝敗を決めるため、誰よりも早く辿り着こうとも敗北の可能性がある。 なお製品版では水中戦や空中戦などのステージも追加されており、それぞれのステージに応じた武装選択が勝利の鍵となる。 そして最後に。 最終ポイントは指定の座標には出現しない。最終ポイントと指定された場所に行くとオーナーとの通信が妨害され、ラスボスが出現する。 尚ボスは怪獣だったり巨大ロボだったりとセンターによって特色があるらしい。 記四季たちが行くセンターは・・・・ 簡単な時系列 ホワイトファングはハウリングソウルとクラブハンド・フォートブラッグの二年後の物語である。 そのためクラブハンドでは中学生だった春菜たちは高校生に、都は23から25歳に少し老けている。 ハウリングソウルを始点とすると、数ヵ月後がクラブハンド、二年後がホワイトファングと並ぶ。 七瀬姉妹の両親=記四季の子供 二人とも存命中である。 作中では未だに出番が無い謎の両親であるが、いたって普通な人達のようだ。 3Sが斬る! こちらで大人気(?)連載中のカルト的な人気を誇る謎番組。 夏ごろにDVDが発売予定らしい。 ハウリングソウル 彩女やハウに限らず戦闘好きに共通するもの。 共振する魂は彼女たちの意思に関係なく、ただ前へと進むためだけに炎を滾らせる。 作中の年数 2036年以降と言う意外とくに明確にしていない。 二年前の交通事故 都の恋人が死亡した飲酒運転事故。 彼女の目の前で轢かれたらしい。運転手は法の下に裁かれたが彼女は未だにこの事故を引きずっている。そのためか男に興味がなくなってしまっている(女性は恋人に近いところまで行くが男性は友人止まり。吉岡はオカマなので例外である) この事故が無ければ彼女はハウに出会う事ができなかった。 記四季の著作物 小説だったりエッセイだったり色々書いている。 一番新しいのが『レポート必勝法! おいしいカレーの作り方』と『狼と田舎暮らし』である。 記四季の交友関係 アウトドア引きこもりの割りに広い。 人間国宝がいたり某有名店舗の店主がいたりと、どこで知り合ったのか謎の知り合いが多い。
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中学を卒業し、春休み兼高校への準備期間といったところの3月。 卒業後の3月というのは夏休み並に長い休みとなり、宿題もないため基本的に卒業生は皆遊び呆ける期間ということになる。 「ゲーム『グラディウス』でプレイヤーが操る……ビックバイパー、と……」 そしてその時期にこの少年は学校の準備など忘れ、ゲームセンターでクイズゲームにかまけていた。 「……あっ」 『残念だけどここでお別れだー、また会おう!』 画面の中の先生から告げられる予選敗退の言葉。 『こんな時だってあるさ! さあもう一度!』 「……悔しいけど仕方ないか」 荷物を纏め、ゲームセンターから退店しようとする。 が、そこで少年はある人だかりを目にする。 「……?」 人間、人だかりがあると寄ってみたくなるものである。 少年もその例にもれず、その人だかりの方へ行く。 「何かな、この人だかり……?」 少年は同年代の少年達と比べると背が高い方であり、すこし背を伸ばしただけで人だかりの向こう側は見ることができた。 「ん……」 もう少し背を伸ばすと、人だかりの中心にある筐体に書かれた文字が目に入った。 「……武装神姫?」 どうやら筐体の中で少女たちが戦っているようである。 が、それ以上は事前情報も何もないため分からなかった。 「何をしている?」 「えっ?」 背伸びの最中に少年は声を掛けられる、振り返ってみるとそこには友人の顔があった。 「……櫻庭君?」 少年の友人の名前は櫻庭(さくらば)遊理(ユウリ)。 少年の一番の親友で中学までは一緒であったのだが、高校は別々となってしまったので、日常的に会うことはなくなってしまうのである。 無論、今のように地元で会うことは多いのであろうが。 「いや、人だかりができてたから…… でも奇遇だね、こんな所で何をしてるの?」 「いやまあ……ちょっとな。 お前は……」 「まあ、いつも通りマジアカをちょっと……」 マジアカ、コナミのクイズゲーム、クイズマジックアカデミーの略である。 「「「おおおおおお!!」」」 そんなことを話していると、人だかりの方から歓声が沸く。 「……何?」 「悪いな、通してもらえるか?」 「ああうん……え? 櫻庭君って……えっと、この人だかりができてる何かに興味があるの?」 「ん……まあな」 『マスター、もう付いたのか?』 「ああ、いや……」 遊里のバッグから、褐色肌の小さな少女が顔をのぞかせた。 「……なにそれ?」 少年は少女をみて、おそらくこの少女の所有者であろう友人に聞く。 それに対し友人ははぁ、とため息をつい少年に話した。 「武装神姫、聞いたことないか?」 「ええと、な……」 ない、そう即答しようとする。 しかし少年は以前、どこかで武装神姫という文字を見たことがあるような気がした。 が、思い出すことはできなかった。 「どうした?」 「いや……ないよ、聞いたことは」 聞いたことはない、嘘は言っていない。 見た気がするだけなのだから。 「そうか、まあ……簡単にいえば、着せ替えて戦うロボットアクションフィギュアだ」 「へえ……ロボットなの?」 少年は遊里のバッグから顔を出している小さな少女の方を見る。 「じゃあ、この子も?」 体を屈めて、少女に顔を向ける。 『マスター、誰だこいつ?』 「俺の友人だ、後で紹介する」 「すごい、喋った」 最近のロボットの技術はここまで進歩していたのか、と少年は感心する。 「……でもなんか、高そうだね」 「まあ、ちょっといいパソコンが買える程度の値段はするな」 その「ちょっといいパソコン」を持っている少年からすると、その値段は容易に想像できた。 「……良く買ってもらえたね」 「まあ、合格祝いにな」 『マスター、そんな事話してていいのか? 終わっちまうぞ!』 「ああ、そうだな。 そうだ、お前も見ていくか?」 「いや……いいよ、今日は日が悪いや」 マジアカを折角プレイしに来たものの、予選敗退となり少々落ち込んでいるようである。 「そうか、ならいいさ。 劫火、行くぞ」 『おう!』 遊里はその少女と共に人ごみの中へ消えていった。 「……武装神姫、か」 (そう、僕はこの時、こんなものに興味は持っていなかった。 ……かわいいとは思うけど、数ある萌えキャラ系コンテンツの一つだと思っていた。 でも、この後あらゆる意味で意外な形で、意外な広い交友関係を持ち、意外な事件に巻き込まれていくことになるなんて…… 今の僕には、知る由もなかった) 「ただいま」 少年は帰宅早々、誰もいない家に告げる。 この少年の親は共働きであり、あまり家に帰っては来ないのである。 「ん?」 見慣れない箱が届いている。 「……なんだろう、これ」 そう言いながら箱に書かれている商品名を見る。 「え……」 今日3月26日は予約していたゲームの発売日、 コ○ミスタイルでの予約なので、今日はお届けの日、ずっと待ちわびていた日であった、筈なのだが…… 「……ああ、そうか。 今日はもう26日だったか……」 ずっと前に予約していたのだが、受験等いろいろあって忘れてたようである。 「『ハヤテのごとく!! ナイトメアパラダイス豪華版』。 本当に何故かかなり高かったけど……」 そう、この少年はハヤテのごとく!の大ファンである。 ハヤテのごとく!の主人公、『綾崎(あやさき)ハヤテ』の姿に憧れたのがきっかけでその作品を愛するようになったのである。 もっとも、この少年をオタクの世界へ橋渡ししてしまった作品でもあるのだが。 「……なら、さっそく!」 少年は予選敗退で落ち込んでいることも忘れ、その箱を抱え階段をものすごい勢いで駆け上がる。 二階の自分の部屋の扉を開けると、机の上のPSPを持ち出してベッドの上に座り込んだ。 「PSPよし、充電器もよし、箱の状態もよし……」 さながら一世代前の教習所のビデオのようにわざとらしく指差し確認をする。 「それにしてもゲームソフトにしては大きな箱だな。 それだけ特典が豪華なのかな……やっぱり、凄く高かったし」 特別版ということは、予約特典、早期購入特典が多数付いているということである。 彼は特に特典の内容は気にせず、コナミスタイル販売限定の一番高い物をとりあえず予約したのだ。 『ハヤテのごとく!』の大ファンという理由だけで。 「……それじゃあ、オープン!!」 満を持してその箱を開け。 「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 中身を確認し、必要以上のリアクションをとる。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…… ……え?」 箱の中身を見た彼は必要以上のリアクション以上に驚きを隠せない様子を見せた。 何かが足り無かったわけでもなく、内容がそれほどでもなく拍子抜けしたわけでもない。 その中に、予想外の物が入っていたからだ。 「これって……まさか?」 箱の右側に収まっているゲームソフトへの興味はどこへやら。 左側に収まっている箱を手に取り、上下左右裏表、箱の外装をすみずみまで見回し、彼は静かに口を開く。 「武装……神姫?」 それはまぎれもなく、武装神姫だったのである。 「このパッケージ絵って……」 金髪ツインテール、ツリ目のライトグリーンの瞳。 そして、白皇学院の制服を模したカラーリングの素体。 少年にはそれに描かれている少女が誰か、一目で分かった。 「ナギ……?」 ナギ、ハヤテのごとく!のメインヒロインの名前である。 その武装神姫のパッケージに描かれていたのは、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院(さんぜんいん) ナギその人だった。 「武装神姫……ナギ……!?」 驚きのあまり、再び声が出なくなった。 そして、ようやく理解した。 ナギのフィギュア付属が付属するというコナミスタイル販売限定豪華版だけが、異常に高かった理由が。 「ちょっといいパソコンが買える値段」である、武装神姫が付属するのならば、それは高くなるわけである。 そしてこの時やっと思い出したのだ『武装神姫』という単語をどこで見たのか。 その場所は、彼がこの度予約したゲーム、『ハヤテのごとく!!ナイトメアパラダイス』の公式サイト及びコナミスタイルに書いてあった、 『コナミスタイル「武装神姫ナギ」付き豪華セット』という文字だったのである。 「……」 彼はゲームは基本初見プレイ派なので、公式サイトには通わなかったために、ゲームの予約以来目にすることがなかったのだ。 「……これでいいのかな? よくわからないけど……」 待ちわびていたはずのゲームソフトには手をつけず、ナギの箱を開封し、起動に手間取っている彼の姿がそこにあった。 やっとのことで設定は終わり、あとは起動させるだけである。 『お嬢様型ナギ。 セットアップ完了、起動します』 「え……もう? 起動するの? 本当に?」 驚いているうちに、その少女は金髪のツインテールをなびかせ、ライトグリーンの瞳を開きながらゆっくりと起き上がる。 『ん……』 その少女は目を閉じて背伸びをした。 「わぁ……!」 『……おぉ……お?』 その金髪ツインテールの小さな少女は眠たげな目こすりながら、『マスター』の方を向く。 「う……動いた……!!」 『……当然だ、動くぞ、神姫なのだから』 「……そ、そう、だよね」 聞きなれているツンデレ系ヒロインの鉄板である釘宮理恵ボイスが部屋に響く。 今さっき起動した金髪ツインテールの少女がツンデレボイスで、マスターだけに話しかけている。 アニメのように『綾崎 ハヤテ』やその他キャラクターや、全国の視聴者に向けてではなく。 (ナギが僕だけに話しかけてくれている) 感動で胸が打ち震えた。 事前情報がなかった分、特に。 『……問おう。 お前が、私のマスターか?』 「え?」 ハヤテのごとく!特有のジト目を少年に向けながら、別のアニメの名台詞を言う。 二人称は変わっているが。 「……はい、かな?」 『……おい、もうちょっと乗れよ』 「い、いや、あのアニメは見てなくて……」 『途中で切るなよ、アニメは自ら全て見て初めて評価をするのだ』 「……ごもっともです」 別に視聴を切ったわけではないが。 『む……』 少女渾身の目覚めのあいさつを躱されたせいか、少女の顔が明らかに不機嫌になったのが分かった。 『なんだか、あまり歓迎されていないように感じるのだが。 なんだ? もしや転バイヤーか? 起動して問題がなかったらリセットして売り飛ばすつもりか? ならば残念ながら未開封のほうが高かったと思うぞ』 「い、いや、生まれてこの方僕は転売なんてしたことないけど」 この少年はダブったトレーディングカードを売ったことすらないのである。 「その……驚いたから」 『驚いた?』 「うん……神姫を手に入れるつもりなんてなかったから…… まさか、ゲームの特別版の特典で付いてくるなんて」 『……なんだ、公式サイトを見ていないのか? ちゃんと神姫ナギが付属すると書いてあったと思うのだが』 「……はい、確かに書いてあったんですけれども」 公式サイト及びコナミスタイルで予約時に二目見て以来今まで忘れていた、とは言えないわけである。 「その、僕予約の内容とか気にせずに予約するから」 『……』 その言葉を聞いて、少女は顔を背ける。 『それでは私が傷つくではないか……』 「え、え?」 『だってお前は、私を心からは必要としていないんだろう?』 神姫というものは基本的には買った人に必要とされているからこそその人の下へ行くのであるが、 この少年の場合は『武装神姫ナギ』が付属することを知らなかったわけである。 捉えようによっては、必要とされていない、とも感じてしまうかもしれない。 「そ、そんなことないよ! えっと……お、お嬢様?」 『ん、お嬢様?』 「だって君はナギなんでしょ? だからお嬢様」 この神姫である少女の元となった人物、ハヤテのごとく!のヒロイン、三千院 ナギは圧倒的材力を持つお嬢様、という設定である。 『あぁ、そういえば設定がまだだったな』 「え、せ、設定?」 『……神姫を手に入れる予定がなかったのなら知るわけがないな。 仕方ない、教えてやろう、まず私のマスター……つまりお前のことを私がどう呼ぶかを決めるのだ』 「ま、マスター……」 『あぁ、マスターになる気はないのだったか? 別になりたくないのならいいぞ、誰かハヤテ好きの知り合いにでも引き取ってもらえ。 それかやっぱりヤ○オクにでも出したらどうだ、私としても私を落札してくれるなら大事にしてくれるだろうからな』 「い、いや、なります! えっと、僕、ハヤテのごとく!が大好きですから!」 『……そうか。 その言葉に、嘘はないな?』 「ありません!! 絶対に!」 『……ほう』 「……」 少年は15年間生きてきて中で一番今までになく真剣な目を少女に向けて言った。 『ならばお前は。 私とハヤテの出会った時の、ハヤテの告白のシーンを一字一句言えるのか?』 「……」 沈黙が走る。 目を閉じて、息を整えた。 『まあ、流石にそれは冗談……』 少女が言い切る前に少年はゆっくりと目を開け、口を開く。 「僕と…付き合ってくれないか?」 『へ?』 少女に確認をとる間もなく、それを演じ始める。 「僕は君が欲しいんだ」 『なっ……』 真剣さが伝わる。 先ほどとはまるで違う気迫に、思わず後ずさりをしてしまうほど。 「わかってるさ!! だがこっちだって本気だ!!」 『……』 その真剣な眼差しに思わず彼女は…… 『で…でも!』 そのシーンのナギの役を、無言で引き受けた。 「こんな事、冗談じゃ言わない…」 吐息のかかる距離。 完全に役にのめり込む二人。 「命懸けさ…… 一目見た瞬間から… 君を…」 犯罪者の目。 ……をするハヤテを完璧に演じる。 「君をさらうと決めていた。」 『………………』 「………………」 二人はしばらく見つめあう。 そして、『ナギ』は口を開いた。 『本気の想い…… 伝わったぞ』 「…… シャキーン」 『擬音まで言わんでいい』 「……ごめん」 『……フ』 少女は笑顔で『ハヤテ』に言う。 『合格だ。 お前の想いは本物だな』 少年も笑顔になり、少女に言う。 「君に合格をもらえるなんて……光栄だな」 『私も、お前がマスターならば安心できそうだ。 さっきの言葉は撤回しよう』 「……ありがとう」 ハヤテのごとく!を好きでよかった。 少女の言葉を聞き、少年は心からそう思った。 『では、続けよう。 なんと呼んでほしい?ご褒美にできるだけ希望に応えてやるぞ』 「呼び方……か」 なんて呼んで欲しい? 少年はそう言われたのは初めてだ。 「……ピンと来ないよ」 おそらく、それが普通である。 「例えば、どんなの?」 『そうだな、普通ならば「マスター」やら、お前の名前やら。 それとも「私の執事」、とでも呼ぼうか。 そうだ「バカ犬」でもいいぞ。 望むなら「兄さん」とも呼んでやらないこともないが』 バカ犬、兄さん。 どちらもハヤテとは関係のない作品である。 声を当てている声優は同じであるが。 その縁でハヤテのごとく!でネタにされたこともある。 『……推奨は全くしないが、「下僕」やら、「豚」やら、「そこのお前」、「そこの人」でも』 「……普通に僕の名前で」 ナギの姿の少女にバカ犬およびほかの呼び方で呼ばれても違和感しかない、とハヤテは考えた。 きっとそれはハヤテのごとく!よりとらドラ!やゼロの使い魔がのほうが好きな人でも同じことであろう。 『まあそれが無難だな。 では……あ』 少女は何かを思い出したように、話を中断し口が空いたままにした。 『そういえば、名前を聞いていなかったな。 お前、名前は?』 「名前……僕の?」 『そうだ、どうした、早く言うがいい』 「うん……僕の名前は」 吐息のかからない距離。 机の上の少女の眼を真っ直ぐと見て、少年はその名を言う。 「ハヤテ」 『え?』 「鷹峰(たかみね) 颯(ハヤテ)。 僕が憧れた君の執事と……同じ名前だ」 ハヤテのごとく!の主人公、綾崎ハヤテはヒロインである三千院ナギの執事という設定である。 その、自身と同名の『綾崎ハヤテ』の、何があっても、どんな不幸があっても挫けずに立ち向かっていく『ハヤテ』の姿に。 『ハヤテ』にハヤテは憧れた。 『ハヤテ』の勇姿を見た瞬間……彼はハヤテのごとく!のファンになったのだ。 『ハヤテ……か……お前……』 「ん?」 『……まさか名前を詐称などしていないだろうな?』 「してない! ええい!! だったらこれを見よ!」 ハヤテは生徒手帳を取り出し、個人情報の乗っているページを見せた。 まだ高校に入学していないため、中学時代の生徒手帳であるが。 『おぉ……!! こ……これは……!!』 「ふふん」 『随分と無愛想な顔の写真だな』 「君に言われたくないし見るべきところはそこじゃない! それにその時は眠かっただけ!」 『おぉー、本当に名前はハヤテではないか!!』 「だから最初っからそう言ってるじゃない! ……流石に苗字は綾崎じゃないけどね」 ちなみに『綾崎』及び『三千院』という苗字は実在しないそうである。 『まあ、ならばいいのだ。 なんというか、呼びやすくて良い』 「それは……よかった」 『では、次は私の名前だ。 いい名前をつけるのだぞ、一生物なのだからな』 「え?」 名前。 (この少女に付ける名前なんて一つしかない) ハヤテはそう思うのだが、一応聞き返す。 「ナギじゃ……だめなの?」 『いいや、ダメではない。 だが、ゲームでもデフォルトネームと言うものがよくあるだろう? 私で言えば「ナギ」はデフォルトネームなのだ、別に変えてもかまわないぞ。 別に魔法少女モノが好きならフェイトと呼んでくれてもいいし、全く関係ない名前をつけても構わないのだ』 (あぁ、そういう事なんだ) しかし、ハヤテにとってはこの少女を『ナギ』以外の名前で見ることはできなかった。 「でもやっぱりナギはナギじゃないと……しっくり来ないな」 『そうだな、キャラクターの名前を勝手に変えてプレイすると違和感があることもある。 それはそれで懸命な判断だな』 「そ、それはどうも……」 『ということは、私の名前は「ナギ」でいいんだな?』 「うん、もちろん」 『わかった、それじゃあ私の名はナギだ。 よろしく頼むよ、ハヤテ』 ナギはハヤテに向かって微笑んだ。 「う……!」 その笑顔にハヤテは思わずキュンとしてしまった。 この瞬間、ハヤテの中でナギの株が鰻登りだったことは言うまでもない。 『ところで、早速だが私は疲れた。 クレイドルを出してくれ』 「……」 『……おい、ハヤテ?』 「えっ? あ、あぁ、はい、何?」 『……クレイドルを出せと言っているのだ』 「ク、クレイドル?」 『私の入っていた箱に一緒に入っていなかったか?』 その言葉を聞いて、ハヤテは箱の中を探す。 すると、比較的大きめな白い物体を見つけた。 「えっと、これ?」 それを取り出してナギに見せつける。 『おぉ、それだそれだ!』 ナギは早く早く、と言わんばかりにクレイドルに向かって両手を伸ばしている。 「えっと、どう設定すればいいの?」 『適当に組み上げてUSBのケーブルをパソコンに差し込めばいい』 (大雑把すぎるって……) そう思いつつもハヤテはナギのために設定をする。 パソコンにUSBケーブルをつなげるという組み上げると言っていいのかわからないほど短い手順であったが。 「……組み上げた(?)けど」 パッと見ハヤテには、この物体の正体が何かわからなかった。 「これ、何?」 『簡単に言ってしまえば、充電器だ』 (これで充電器なんだ) 「でもこれ……どうやって充電するの? ナギにこれのどこかにある何かを差し込めばいいの?」 『いいや』 ナギはクレイドルの上に乗り、それに横たわりながら言う。 『この上で寝ていれば、勝手に充電されるのだ』 「……へぇ」 (最近の充電器って、進歩してるなぁ) そう思いながらハヤテは呟く。 「……科学の力ってすげー」 『まぁというわけで私は寝るぞ、起動したばかりでエネルギーが少ないのだ。 夜には充電が終わるはずだ、話なら後にしてくれ』 「え、あ、あの……」 『Zzz……』 ハヤテが止める間もなく、ナギはクレイドルで眠りについてしまった。 「……」 ナギの寝顔を見ながら、ハヤテは呟く。 「武装神姫……か」 ひょんなことから神姫のマスターになってしまった少年、鷹峰ハヤテ。 これは、ナギや友人とともに駆け抜けた、ハヤテの激動の高校生活を綴る物語である。 プロローグ 「悪夢の楽園より」 完 次回『ナギのごとく!』 『学校……お前、ニートじゃなかったのか』 ハヤテ「あくまで、執事ですから……」
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第2話 「開始」 チビ悪魔と暮らす事を決めた次の日。 まずはブソーシンキ…「武装神姫」について無知極まる俺に対するお勉強から始まった。 チビ悪魔の長ったらしい説明をかいつまんで話すと、武装神姫ってのは「EDEN-PLASTICS」っていうバカデカい多国籍企業が去年……つまり2036年に発売してから爆発的な大ブームになったオモチャのこと。 しかしたかがオモチャと侮るなかれ、そのシェアはいまやとんでもない規模らしい。 このチビ悪魔を作った「島田重工」は元々航空機用だの工業用ロボットだのの製造で有名な大会社だし、他にも国内有数の製鉄会社「篠房製鉄」や世界的トップデザイナーが起業した「GOLIフューチャーデザイン」、トドメにゃヨーロッパ系軍事産業の勇「カサハラ・インダストリアル」までもが参入して、今現在も続々と関連企業は増えているという。 ……正直言ってビックリしたってぇか呆れたね。 世界は平和だ。 で、そういうオフィシャルメーカーから色々発売されている専用パーツはもとより、アンオフィシャルのオモチャさえ流用可能という拡張性の高いカスタマイズ性(チビ悪魔によると『公式アナウンスは出来ないけれど世間では暗黙の了解』だとか)が人気を呼び、さらにはネット上での登録によるイメージカスタマイズやドレスアップコンテスト、神姫同士を戦わせるバトルサービス……なんてのもあるそうだ。 ハイテクな話にはあまり興味もなく、アレコレと関係ない話で混ぜっ返しながら聞く俺に、根気よく話してくれたチビ悪魔の根性はたいしたモンだった。 話が一段落したあたりで、オレンジジュースを一口。 俺は百均で買った紙コップ(後で洗うのがめんどくさいから)だが、コイツには手ごろなサイズのコップなんか無いんで、ペットボトルのキャップだ。 んくんく、と器用にジュースを飲んでいる悪魔を見て、ふと思いついた事を口にしてみる。 「それにしても、お前って悪魔タイプなのに礼儀正しい喋り方だよな。 神姫ってみんなそうなの?」 「いえ、出荷時にランダム設定されますので、性格は個体ごとに違います。 無邪気な子や大人しい子、元気な子、悪戯が好きな子、オシャレが好きな子、バトルが好きな子、嫌いな子……様々です」 「ふーん。 で、お前はどんな性格なワケ?」 えっ、と一瞬口篭もったあと、おずおずとこっちを見上げてきた。 「……あの、笑いませんか?」 「んにゃ、別に」 「……その……バトルに興味が……」 「へー意外」 「笑わないって約束したじゃないですかぁ!」 「いや笑ってない笑ってない。 なんか掃除とか洗濯とかのお世話関係が好きそうかなーって思ってただけで」 「そういうのも嫌いじゃないです……というか好きですけど、『特訓』とか『パワーアップ』という言葉には憧れがあります」 …つくづく意外だ。 いや、「実は好戦的」ってのは悪魔らしいというべきなのかね?
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{Zwei} 前回はクリナーレ…『Drei』を調べた。 中身は『Vier』とほぼ同じだったんでそれほど驚愕はしなかった。 残念ながら俺の記憶に関する事は書かれていなかった…。 まぁ、そりゃあそうだよな。『Drei』に関するデータだったんだからな。 …あれ、前もこんなセリフ言ってなかったっけ? まぁいいや、で今日は『Eins』『Zwei』の二個中の一個、『Zwei』のセキュリティーを突破する事に成功した。 ホント、セキュリティーを突破するのにどれだけの労力を使ったことやら…。 「ツヴァイ…どんな事が書かれているかな?」 注意深く見ながら次々に色々な項目を見ていく。 西暦2027年12月×日 我が社が武装神姫というプロジェクトに参加するになった日。 そこで我が社はオリジナル、つまり試作型MMS(Multi Movable System)を開発する事になった。 試作型の数は四体。 西暦2029年2月1×日 この時はまだ武装神姫は一般に公開されていなかった。 『Zwei』は『Eins』と一緒に誕生したMMS。 『Zwei』の識別はAngel Type Version Two。 西暦2030年4月2×日 攻防システムでトレーニングした結果。 近距離能力: ◎ 中距離能力: ○ 遠距離能力: ○ 攻撃能力: ○ 防御能力: △ 加速能力: ◎ 最高速度能力:○ いずれは近距離関係に特化したMMSになると予定される。 ※Devil Type Version Oneの『Drei』と酷似しているが、『Zwei』の場合、奇襲や襲撃という敵の不意をつく攻撃が得意と判明。 近距離関係といってもヒット&アウェイに近い戦法になるだろう。 西暦2030年8月×日 『Eins』と平行に製作された『Zwei』は近距離奇襲攻撃に特化したMMSに決定された。 暴走の危険は多少検知された。危険度は20%。 だが、暴走の危険に注意しこのまま更なる研究を続ければ、通常のMMSよりも数十倍の能力を引き出せると肯定した。 他の武装神姫に比べ、体重が軽い。 西暦2030年10月×日 『Eins』の状態が急変したのを我が社のスーパーコンピューターが察知。 人間の『感情』というものを身につけた。 原因は不明、この事がきっかけとして『Eins』と平行に製作されたいた『Zwei』とは別々に研究される事になった。 今だに何処にも支障がない『Zwei』はそのままプロジェクト研究を続ける。 『Eins』は一時中断、西暦2030年10月2×日に別のプロジェクト研究に移行。 西暦2030年12月1×日 度重なる訓練の結果、複数の敵でも瞬時に判断し撃退する事も可能と判明した。 今では強化された複数のレプリカと戦闘を行っても易々と迎撃し、レプリカは全滅。 武装も従来着用されるよりオリジナル武装の方が能力強化される事も判明。 更なる能力向上を決定された。 だが、問題点は暴走の危険度が20%ある事。 能力向上する事は決定されているが、過度の力は素体とコアの負担になる。 要注意して研究を進める事が義務づけられた。 西暦2031年5月1×日 『Eins』が原因不明の暴走。 研究員14人、機動隊32人を惨殺。 『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』に迎撃させたが、残念ながらいまひとつ成果は得られなかった。 こうなってしまったら『Drei』『Vier』も同じ結果になると推定され試作型MMSによる迎撃は不可能と判断。 暴走してから数十分が経過した時、『Eins』の近くに居た一人の少年によって『Eins』の暴走を止める事に成功した。 少年の名は…ある研究員の保護により記載されていない。 西暦2031年5月1×日 上記に記されいる日付と同時刻に『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』が迎撃に向かったが返り討ちにあい、素体に損傷・内部回路に損傷。 『Zwei』の素体は軽傷だが内部回路は重傷。 どうやら『Eins』の攻撃は外部・内部に別けて攻撃可能と予測。 内部回路はズタズタにされ損傷は激しく、一部の記憶デバイスを犠牲にして修理する事が決定された。 記憶デバイスの内容は不明。 機密事項である。 幸いと言えば、コアが破壊されてないのでデータは健在である。 西暦2031年5月1×日 突如の『Eins』の暴走事故により、試作型MMSの研究は一時的に凍結。 研究の中断は余儀なくされ、確定は確実。 『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』はこの日をもって完全凍結された。 西暦2040年5月1×日 武装神姫が稼動、発売されてから9年。 ※神姫タイプ以外のMMSはこの限りではない。 武装神姫のシステムが総合的にバージョンアップし、ある程度安定してきた。 しかも武装神姫の人気は徐々に上がっていくのを見て我が社の試作型MMS研究を再開される事が決定した。 しかし、いくらバージョンアップしたとはいえ、9年前同様に暴走してしまったら危険。 我が社は試行錯誤を繰り返した結果、試しに人間と生活させる事にした。 人間と一緒に生活させれば、我々人間がどのように生きているのか生活面の知識が増えるだろうと予測。 そうする事によって我が社の四体の試作型MMSはこの世の中の知識を身につける。 そうすれば、人間がMMSをどのように使役してるか自分達がどのような存在か知る事になる。 結果、試作型MMSは自分達がどのような存在か理解し、無駄な抵抗をしないまま研究できる。 しかし、ここで少し問題が発生した。 この四体の試作型MMSと一緒に生活する人間を決めなければならないという問題。 我が社の人員から選んでもよかったのだが、9年前の事故によって誰もが拒否した。 だが、斉藤朱美研究員のスカウトによって一般人がこの大役を受け持つ事になった。 現在は 斉藤朱美研究員の弟、天薙龍悪に四体の試作型『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』監視をさせ、今に致る。 ここで文章が終わっていた。 「…少し変わったな」 このデータで一つ謎のピースが解った。 『Eins』の事故の詳細が少し解ったのだから。 それと『Eins』と『Zwei』は別々のプロジェクトに移されたみたいだ。 正確に言えば『Zwei』はそのまま予定通りに研究され『Eins』はまた別のプロジェクトに移された、と言えばいいかな。 しかし、『Eins』とバトルして重傷とはな。 データを見ると記憶デバイスを犠牲にした、と記されていたが…いったい何の記憶だ? …にしても酷い攻撃をクラッタに違いない。 …これがルーナの過去かぁ。 可哀想な過去だな。 「そういえばっ…」 今思った事。 あいつらには、この今までの記憶というものが無いのか? そこら辺どうなんだろう。 訊いてみたい所だが、正直、気が引ける。 今まで見てきたデータでは三人とも感情がないように見えるし。 データの画像を見て、それがハッキリする程の無表情だ。 …なんか嫌だな。 あいつ等の過去を無断で見るのは。 罪悪感もあるし、俺の良心が痛むのは当たり前。 もっと悪く言えば俺は土足であいつ等の心の中にズカズカと入っていくようのものだ。 …あぁ~! そう考えてきただけで自分にイラついてきた。 でも、俺はどうしても調べないといけない。 あいつ等の事を考えながらも結局調べて見る、この行動。 矛盾してるがしょうがない。 後一つ、『Eins』が終わるんだ! あれが終わればもう見る必要もなくなる。 もう遅いかもしれないけど、今、謝っとく! 「ゴメン!」 俺しかいない地下部屋で俺の声が響く。 無意味な行動だが、やっとかないと良心の呵責に押し潰されそうだったから言った。 時が来たら、いつかは面と向かって言おう。 だから…もうちょっとだけ、お前等の事を調べさせてくれ! 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」